ノーマライゼーションの理念と原則
ノーマライゼーションとは、障がいを持つ人もそうでない人も、お互いに助け合いながら、地域社会の中で自分らしく、ごく「ノーマル」な生活を送ることを目指す理念です。この理念は、「標準化・正常化」や「常態化」を意味し、「以前は特別視されていたことがあたりまえになる」という考えを含んでいます。ノーマライゼーションの理念の根底には、「障がい者が変わる」のではなく、「社会が変わる」という視点があり、障がいを持つ人もそうでない人も、ありのままで生活を共にできるような環境整備を目指しています。
この概念は、デンマークのバンク・ミッセルセンによって提唱され、その後、「ノーマライゼーションの育ての父」と呼ばれるスウェーデンのベイクト・ニェリィエによって、国際的な発展の基盤となる8つの定義(原理)が確立されました。
ノーマライゼーションの8つの定義
ニェリィエが確立した8つの定義は、障がいを持つ人が送るべき「ノーマルな生活」の具体的な側面を示しています。
- 一日のノーマルなリズム:重度の障がいがあっても、その人にとって有意義な24時間を過ごすことを意味し、介護が必要な場合でも、利用者の生活ペースと必要性が最優先されます。
- 一週間のノーマルなリズム:家庭、仕事、余暇という3つの側面を一つの建物内で完結させることなく、それぞれの特性に合わせた住居、社会活動、余暇時間の創出を支援に含めることを指します。
- 一年間のノーマルなリズム:季節の移り変わりや家族行事だけでなく、地域の伝統行事や祭りなど、社会的な行事に参加する権利が保障されることを意味します。
- ライフサイクルにおけるノーマルな発達的経験:幼少期から老齢期まで、各ライフステージでノーマルな発達的経験が保証されること。特に青年期から成人期にかけての精神的なストレスに対応し、継続的で建設的な社会生活トレーニングが重要とされます。
- ノーマルな個人の尊厳と自己決定権:障がいを持つ人の選択、願い、希望、自己決定権が尊重され、意思表示が困難な人に対しても、その意思を注意深く尊重することが求められます。
- その文化におけるノーマルな性的関係:障がいの有無に関わらず、異性との関係性を含む豊かな生活を送り、他者の違いを認める経験を通じて人間的な成熟を促し、社会的な能力の向上につなげることが尊重されます。
- その社会におけるノーマルな経済水準とそれを得る権利:ノーマルな生活に必要な経済水準の確保が不可欠であり、障がいによるハンディキャップを埋めるための支援とともに、年金や各種手当などの経済的支援が平等に保障されることを意味します。
- その地域におけるノーマルな環境形態と水準:学校、職場、居住施設などが、一般社会で使われる設備基準と同等であることを意味し、施設は地域のなかにごく普通に建設され、地域住民との関係が育まれることが重視されます。 QOL(生活の質)と人権の尊重
ノーマライゼーションの実現を図る上で、「クオリティ・オブ・ライフ(QOL)」、すなわち「人生の質・生活の質」の理解は重要です。QOLは「活動」「対人関係」「自尊心」「人生における基本的な幸福感」の4つの要素から成り立っており、ノーマライゼーションの基本的な価値観と密接に関連しています。これらの価値観は、国連人権宣言をはじめとする人権宣言に幅広く通用する概念であり、障がいを持つ人々の社会的状況を判断する重要な評価基準となります。
日本国内の状況とノーマライゼーションの取り組み
内閣府の調査によると、現在、国民の9.3%(約1,164万人)が何らかの障がいを持っていることがわかっています(身体障害者423万人、知的障害者126万8千人、精神障害者614万8千人)。社会的な障がいへの理解が進んだことなどにより、障害認定を受ける人が増加傾向にあります。
- 政府による具体的な施策
日本においてノーマライゼーションという概念は、1981年の「国際障害者年」をきっかけに広く認知されました。政府は、平成8年から14年にかけて「ノーマライゼーション7カ年戦略」を掲げ、以下の分野で具体的な施策を推進してきました。
・地域で共に生活するために:住まい(グループホーム等)や働く場の確保、介護サービス(ホームヘルパー等)充実、移動や教育の充実、法定雇用率達成のための推進など。
・バリアフリー化を促進するために:車いすがすれ違える幅の広い歩道の整備、公共交通ターミナルや公共施設のバリアフリー化の推進など。
・生活の質(QOL)の向上を目指して:福祉用具の研究開発、情報通信機器の研究心のバリアを取り除くために交流教育の推進、ボランティア活動の振興、精神障害者についての社会的な誤解や偏見の是正など。
これらの施策に加え、平成5年には「障害者基本法」が制定され、内閣府に設置された「障害者政策委員会」がノーマライゼーションの理念のもと、法整備や施策の促進を行っています。
- 厚生労働省と地方自治体の取り組み
厚生労働省は、ノーマライゼーションの理念に基づき、「障害者の自立」と「社会参加の促進」に積極的に取り組んでいます。
- 支援費制度: 平成15年には、従来の行政主導の契約方式を改め、利用者自らがサービスを選択し、事業者と対等な契約を結ぶことができる「支援費制度」が開始されました。
- 精神障害者支援: 障害者の約3分の1を占める精神障害者に対し、入院時の処遇改善や地域生活支援を積極的に行っています。
地方自治体においても、岐阜県のように、人権尊重と心のバリアフリー、福祉を支える地域社会の構築、教育の充実、雇用・就労の促進など、地域の特性に合わせた施策を推進しています。
まとめ ~地域社会で共に暮らしていくために~
ノーマライゼーションの実現は、政府や自治体だけでなく、地域社会に暮らすすべての人々の積極的な関わりによって初めて可能になります。専門的な知識がないことで関わりを躊躇するのではなく、障がいに対する誤解や偏見を捨て、まずは相手に興味を持ち、基本的なことから丁寧なコミュニケーションをとることが重要です。「相手を知りたい」という姿勢が、ノーマライゼーション実現の第一歩となります。

